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Chikirinの日記 RSSフィード

2017-05-23 出稼ぎ労働者@高級リゾート

海好きの私はタヒチやニューカレドニア、パラオなどのリゾート地によくでかけます。

なかでも何度も訪れているのがモルジブ(or モルディブ)。

場所は・・・インドの南西ですね。



この国、人口は 40万人ほどとめちゃ少ない。しかも国土の大半は環礁、そして 1200個とも言われる小さな島から構成されています。

常夏で海がきれいなためビーチリゾートして観光業が成功しており、もともとは最貧国でしたが今は「すごい貧しい」という感じはありません。


1200島のうち、人が住んでいるのは 200島程度。大半は無人島で、そのうち 100近い島が「観光島」として世界各国のホテルにリースされています。

島は「用途別」に分かれているので、観光島には現地の人は住んでいません。

観光島以外も「ごみの島」「囚人の島」など機能別に分かれていたりします。


しかも観光島は基本、「ひとつの島がひとつのホテルに丸ごとリース」されています。

なのである島に行く人はみな、特定のホテルを予約してる人です。

大きい島もありますが、一周しても 1時間ほどという小さな島も数多くあります。


年間の観光客数は人口より多く、ホテルで働いている人もモルジブ人だけではまったく足りません。

だからホテル従業員の大半はインドやスリランカ、バングラディッシュなどからの出稼ぎ労働者です。


一方、宿泊客は世界から集まるお金持ちです。

モルジブには超豪華なラグジュアリーホテルから比較的リーズナブルなホテルまであるとはいえ、バックパッカーが楽しめる国ではありません。

それにたいていの客は 5泊くらいするので、基本、経済的にかなり余裕のある人しかやってきません。

このため、客と労働者の所得格差(人生格差?)がものすごく大きい観光地なんです。


そういう場所でどういうことが起こるか。

今回は、私が経験したことを書いておきましょう。


★★★


ひとつめは、テーブル担当スタッフの業務上横領(?)です。

クルーズ船などと同様、こういった滞在型ホテルでは、朝食も夕食も同じテーブルで食べるよう決まっていたりします。

島にはひとつのホテルしかなく、ホテルのレストラン以外に食事のできる店はありません。島なので島の外まで外食という概念もありません。

つまり毎日みな同じレストランで食べるので、テーブルも決まっており、サービスをするスタッフも、滞在期間中ずっと同じ人なんです。

(例外はハネムーナーがルームサービスを頼む場合ですが、その場合もコテージごとに決まったスタッフがいます)


そして、リゾート地なので、みんな現金を持ち歩いたりしていません。

現金やパスポート、カードなどの貴重品は到着後すぐに金庫に入れ、チェックアウト直前に取り出すのが普通。

だからチップは食事のたびに払ったりはせず、最終日の朝食後にまとめて払うのが習わしです。

この払い方も、ケニアなどで 10日間ずっと同じサファリドライバーに案内してもらった場合と同じです。


で、

今回なにが起こったかというと、最終日前日の夕食時、まだオーダーしていないのに担当スタッフが冷えた白ワインを持ってきたんです。

「なにこれ? 今日の飲み物はまだ注文してないよ?」と言うと、「これは僕からのプレゼントなんだ!」と。


なんじゃそれ。


「そんなこといって、ちゃんと請求書に載せるんでしょ?」と聞いても「神に誓う。載せないよ」って。


意味わかります?


彼がワイン代を(私たちの代わりに)ホテルに払ってる、なんてことはありえません。彼の給与ではそんなことは不可能でしょう。

これは「タダでワインを飲ませてあげるから、明日ボクに払うチップにその分を上乗せしてね」という意味です。

そして当然、私たちはチップにワイン分(全額ではないですが)を上乗せしました。


ただし、彼があのチップをすべて丸取りできるとは思えません。

ワインを提供したけど請求書を書いてないと理解してるバーカウンターのお兄ちゃんにも幾ばくかの手数料が回されるはず。

損したのはホテルオーナー。得したのは出稼ぎ労働者の彼らです。客である私たちはちょっとだけ得。


日本人的感覚では「許されないコト」かもしれませんが、彼らからすれば、ホテルオーナーだって、そういう副収入(&自分達の在庫盗難分の損失)を見込んで、彼らに払う給与を低く抑えている、のかもしれません。

一般に多額のチップが期待できる職場は人気が高いため、給与を抑えても人が雇えるんす。


★★★


2番目。

海で泳いでいると、現地の男性が近寄ってきました。「あっちに魚のたくさんいる場所があるから、連れて行ってあげる」と。


でたよ!


って感じでしたが、一緒に泳いでいた友人が行きたがったのでついて行くと、確かにいい場所がありました。

が、彼はその後ずっと私たちについてきます。そして、チップを渡すまで帰りません。


もちろんチップを渡しました。

次の日、この人は別の観光客の手を引いて泳いでいました。また「いいスポット」を教えてあげているのでしょう。


彼に「名前は?」と聞いても答えません。ホテルオーナーに言いつけられ、副業がバレると困るからです。

前述したように、モルジブでは各島にはそのホテルで働いている人しかいないので、彼も当然、このホテルの従業員です。

でも、ホテルの従業員の中には、客と直接接しない仕事もたくさんあります。皿洗い、ゴミ処理、シーツの洗濯、などなど。

そういう人がチップを稼ごうと考えてやり始めるのがこういう副業なのです。


なお、海で「いいスポットがある」などと言われてついていくのは、決してお勧めできることではありません。

彼らは外国人観光客が溺れ死んでも、なんの責任も問われないし、そもそも救助を呼んでくれるかどうかさえ定かではありません。

私も決してひとりではついていかないし、泳ぎはそれなりに得意ですが、そういう場所では必ずフィンと救命胴衣をつけています。

また、途中で「やばっ」と思ったら、さっさと戻ります。「自力で戻れない可能性のあるエリア」には絶対に行かないようにしましょう。


★★★


最後はビーチバーでのお話。

私たちは最終日、フライトが夜中だったので、正午のチェックアウトを夜の 7時まで延長しました。

リゾート島の中では基本すべて部屋番号とサインで飲食ができますが、システムの制限のため、こういう場合、チェックアウト(したはずの時間である正午)以降は、キャッシュレスで買いものが出来なくなったりします。

この最終日の午後、海で泳いだあとビーチバーに戻ってきて「とりえあずビール!」と注文したときも、バーテンダーは非情にも「もうチェックアウトしてるから現金がないと売れない」と答えてきました。


うげー!


今すぐ飲みたいのに、コテージに戻ってドル札を持ってくるなんてありえねー!!!

私は彼に言いました。「夜の 7時にチェックアウトするからその時にフロントまで代金を取りに来て」と。


彼はニヤリとし「おっけー!」といってビールを渡してくれました。

ありがとー!!!


夜 7時のチェックアウト時、彼はフロントの近くで待っていました。

ビーチバーで働いている彼にとっては既に勤務時間外。普通ならゆっくり休んでいる時間でしょう。

でも彼は「仕事熱心だから」、わざわざ集金にやってきたのでしょうか?


んなわけありません。


私が 10ドルを渡すと彼は「さんきゅー!」と満面の笑顔で、その 10ドル札をポケットに入れました。

・・・その 10ドルがビーチバーの売上げとして記載されることは、まずないでしょう。

全額、彼の収入になる。

だからこそ、勤務時間外でも嬉々として集金にやってきたのです。


★★★


どれも日本では考えられないことかもしれません。犯罪だったり、解雇事由だったりするし、客のほうもそれを見逃さないことが多いはず。

でも世界には、こんなふうに動いている職場がたくさんあります。

むしろ数としては、そういう職場のほうが多いかもしれない。


イタリアの小村で、世界遺産の古ーい教会のトイレの前に座ってるおばさんが、正規に雇われた職員だと確信できてる人は、どれくらいいるのでしょう?

もしかしたら、近くの自宅から勝手に椅子とテーブルを持ち込んで、トイレットペーパー 10センチと引き換えに、連日、大型バスでやってくる観光客から 1ユーロずつ受け取ってるおばさんの収入は、1日で 100ユーロ( 1万数千円)を軽く超えてるかもしれません。

でもあの人達が・・・ただしく税金を払ってるとはちょっと思えなくない?


★★★


旅先では本当にいろんなことが起こるし、日本ではなかなか見聞きできない不思議な光景にも頻繁に出くわします。

下記は、学生時代からずっと旅してきた私が旅の先で見聞きしたことをまとめた本です。

今は文庫化されて価格も安くなり、文庫本とキンドル版には新章も追加しました。

同じ国を何度も訪れて時系列に比較したり、各地の一流美術館の展示方法を比べたり、「豊かである」とはどういうことなのか、世界を歩きながら考えたり、などの記録です。

今日のエントリのような話に関心のある方には、きっと楽しんでいただけると思います。

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それと・・・モルジブの海ってどれほどきれいなの?ってのに興味のある方は、 こちらのエントリにあるふたつの動画をどうぞ!


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そんじゃーね。


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