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見聞読考録

2017-04-04

置き引き被害@ブリュッセル

デジタル一眼をスられてしまった。一緒に入っていたマクロレンズも,代えのバッテリーも,レリーズもすべて。


ベルギーはブリュッセルのとある博物館の 1F。陽光の差し込む静かなロビーで,PC を開いていた,隣に荷物を置いて。人も少ない,閑散としたロビーであったことに,気が緩んでしまったのだろう。


隣に一人の中年の女性が座った。物静かなブロンドの髪の痩せた女性で,僕と同じように博物館を巡り終えて,くつろいだ様子だった。


一仕事終えて,PC を閉じる。隣の女性が同じタイミングで立ち上がったのに,少し違和感を覚えた。そこにあった撮影道具一式が消えているのに気づいたのは,女性がいなくなった後であった。


悔やまれるは何といっても写真だ。歩きに歩いたこの数日で,8 GB x 4 枚と,16 GB x 1 枚の SD カードがフルになった。その枚数たるやいったい何枚になっていたのだろう。心安らぐデン・ハーグでの日々,息を呑むほど美しいアントワープの駅舎,歴史の力に慄いたブリュッセルの古い街並み。すべて。


すべて,さよなら。


それにしても旅人からカメラを盗むとは罪深い。そこに残した記憶を,かけた時間を,返してほしい。今すぐに。財布の方がまだありがたい。


僕にとっては商売道具でもある。Panasonic の GH-2。長年連れ添った,相棒であった。岩肌切り立つ穂高連山で命の危険を感じたときも,然別湖でスノーシューハイクにはしゃいだときも,ロシアのウラジオストクで軍人に囲まれたときも,中国の甘粛省で酒に潰れたときも,モロッコのアガディールで麻薬の密売人に付けられたときも,モンゴルの草原で寒さに凍えたときも,いつも一緒だった。


こうも突然に,引き離されることになろうとは。


もう耐えられない。


今夜はもう悲しみに暮れよう。


見聞読考録 2017/04/03

2013-04-07

マクロレンズな日曜日

ついにミラーレス一眼を買ってしまった。


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選んだのは、Panasonic LUMIX DMC-GH2

最近、後継機 GH3 が出たこともあって、だいぶ安くなっていた。高かったけれども、お得感たっぷりなお買い物。


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2011年の中国での調査の前日に購入した愛機、RICOH の GX200 は素晴らしい働きをしてくれている。けれども、画像を拡大したときなんかに、やっぱりコンデジの限界を思い知らされ、物足りなさが募ってきていた。欲望ってのはそうやって、抑えられなくなっていくものなんだろう。


最後に後押しをしたのは、コレかな。

僕もこんなふうな写真を撮りたい!と、ついに我慢ができなくなった、というわけだ。


それはそうと、この『アリの巣の生きもの図鑑』、ものすごく良い。毎年毎年呆れるほどたくさんの図鑑が出版されるこの日本において、他と一線を画す個性的な図鑑だと思う。

まず、写真のクオリティが異常に高い。クシケアリヤドリバチがシワクシケアリの運ぶ幼虫に飛びながら卵を産みつける瞬間とか、体調 2mm ほどのアリクイノミバエがクロオオアリに寄生する瞬間とか、ミツバアリの女王がアリノタカラをくわえて結婚飛行に飛び立つ瞬間とか、そんな信じられないような決定的な写真が惜しげもなく載せられている。

それから、著者陣が著者陣だけに、とても信頼できる。第一著者の丸山宗利さんの他の著作『アリの巣を巡る冒険』を途中まで読んだが、分類学者とはこういう人達のことか、と思い知らされた。好蟻性昆虫(アリと関わりのある昆虫たち)、特にハネカクシ類に、世界で最も詳しい人に違いない。分類学者とは、つまりそういう人達ということだろう。そんな人達が書いた図鑑が信頼できないわけがない。必然的に、それぞれの解説も素晴らしかった。

さらに、日本国内だけでなく、世界をも見据えている点も良い。日本語で書かれた解説のすぐ下に、英語での解説も書かれている。世界中の人に、しかも未来永劫に渡って色褪せることなく、読み継がれる名著になるのではなかろうか。

最後に、コラムも面白い。これだけ個性的な若手の研究者が書いているのだからそれこそ面白くないわけがない。著者のうちの一人、「俺」さんとは、僕も話したことがある。向こうは覚えていないかもしれないが。


曰く、

結局昆虫撮影で最後に物を言うのは虫に関する知識と経験、さらに各人が生来もつ「虫と通じる能力」(これを「フォース」と呼ぶ)の質だ.肝心の被写体発見能力なくして、撮影も糞もない.

とのこと。


写真一枚で、世界が仰天する、なんてことは科学の世界にはザラにある。走査型トンネル顕微鏡を使って原子を並べて書かれた文字の写真とか、去年の NHK スペシャルで放送されたダイオウイカの映像とか。

写真というものは、科学的に有力な証拠となりうるのだ。


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チャンスを確実にものにするためには、準備を怠らないことが重要だ。生物の見せる一瞬の振る舞いを確実に捉えるために、写真の腕を日々磨いておくのも悪くないだろう。それから、「虫と通じる能力(=フォース)」を最大限に引き出す努力も。


そんなことを考えながら、市場に出回るマクロレンズのラインナップを眺め妄想を膨らませた雷雨の日曜。まさにマクロレンズな日曜日。


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あまりに浮かれすぎて大事な用をすっぽかした。

うわーこれはヤバい。


見聞読考録 2013/04/07